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研究のまとめ


生徒のStory Reproduction作品よりの考察


 Story Reproduction活動を行う前に音読活動を行った。音読活動での構文定着の度合いを見取るため,2つの重要構文(find O 〜ing)(free O from〜)を使用すること,また,既に述べたように,自分が読んだ英文がどんな話だったのか友人に英語で伝えることを想定して書くことを留意させた。

 作品を見ると,38名中27名(約71%)の生徒が(find O 〜ing)を使用したMary found six dolphins swimming around her.という英文を書くことができていた。検証授業では6つの音読活動を行ったが,繰り返し音読したことが高い定着率につながったと思われる。

 残念ながら,(free O from〜)を使用したThey(The dolphins) freed Mary from her fears and anxiety.では,38名中13名(約34%)の生徒しか正しく書けなかった。これは,本文ではThe dolphins freed me from my fears and anxiety.という主人公のセリフであり,ナレーション的に書かなければならないStory Reproductionでの人称代名詞の変換が難しかったためであると思われる。人称代名詞の変換について,十分な説明を行った後で取り組ませれば,正答率は上がっていたと思われる。

 また,右の生徒の作品例の下線部のようにwith(道具・手段)の使い方,for the first time等の表現がよく定着していた。withについては,Dolphins touched her body with their fins.という文での使用であるが,この1文は,長年心の病に悩み苦しんでいたメアリーが,イルカが近付いてきて,ヒレでメアリーに触れることにより,心を開いていくきっかけとなる場面である。おそらく,生徒の印象に残り,感動した部分であると思われる。心に残った部分は伝えたくなるものである。このことからも,音読・Story Reproductionという活動の流れの前に,十分な内容理解をさせることによって更に効果が上がることが期待できる。

 また,作品例1の5〜6行目のイタリック体 She was healed by dolphins.のような本文に出てこなかった英文を書いている生徒や,さらに,作品例1と2の文頭のように,最初の1文をThis is the story about a girl and dolphins.やThe story was very interesting.等のように,友人の興味を引くような書き出しを工夫している作品も見られた。右の作品例には見ないが,Dolphins healed Mary.やMary spent time with dolphins. She had a wonderful time with dolphins.など指導者がoral introductionで使用した表現の転移も見られた。

 作品例3のように,つなぎの単語がなく,箇条書き的な英文になっている生徒も見られた。つながりのある文章を書けるような指導方法を工夫することも今後の課題である。よく書けた生徒の作品を掲示したり,プリントして配布するなど,手本となるものをクラスで共有化することも考えたい。
 
Story Reproduction生徒作品例1

 This is the story about a girl and dolphins. When she went to the deep, she found six dolphins swimming around her. They touched her with their fins and asked her to join them. She became one of them. They made her happy. She was healed by them. She could smile for the first time in many years. Because they freed her from fears and anxiety. She could not stop her tears of joy.
Story Reproduction生徒作品例2

 The story was very interesting. Mary went under the sea.  And she found six dolphins swimming aound her. The dolphins drew closer and touched her body with their fins. She swam with them and she was very happy. She was sick and suffered long time. But she smiled for the first time in many years. Because they freed her from fears and anxiety.  
Story Reproduction生徒作品例3

 She found six dolphins swimming around her. They swam around her. They touched her with their fins. She swam with the dolphins. She was happy. She smiled for the first time in many years. The dolphins freed her fears and anxiety.  
※ 3作品共,スペリングミスは正しく書き換えていますが,文法上のミスはそのままにしています。


アンケートからの考察

音読について

 「音読により語句や表現などが定着したと思いますか」という質問に対して,38名中35名が「定着した(9)」「どちらかと言えば定着した(26)」のどちらかに回答していた。ほとんどの生徒が繰り返し音読することで,単語や構文が身に付いたと実感しているようである。
 また,「音読活動により本文の内容理解が深まりましたか」という質問に対して,38名中全員が「深まった(19)」「どちらかと言えば深まった(19)」のどちらかに回答していた。生徒全員が繰り返し音読することで,話の流れや概要が理解できたと感じているようである。
 さらに,「今回行った音読方法で今後の英語学習に役立ちそうだと思うもの(複数回答可)」という質問では,Chorus Reading(15),Buzz Reading(12),Slash Reading(17),Read & Look up(22),Look up & Write(26)という回答であった。単に声を出して読むだけでなく,短期記憶にとどめてから読んだり,書いたりするなど脳に負荷がかかるチャレンジングな活動が役に立つということに気付いているようである。チャンクの区切りを短くしたワークシートを用いれば,英語が苦手な生徒も取り組みやすく,「言えた!書けた!」という達成感を味わい,今後,ますます意欲的に英語学習に取り組むようになると思われる。

Story Reproductionについて

 「キーワードや構文をヒントとして与えたことで,本文の概要や要点を書きやすかったか」という質問に対して,38名中34名が「書きやすかった(16)」「どちらかと言えば書きやすかった(18)」と回答していた。
繰り返し音読して理解が深まった状態でキーワードや構文をヒントとして与えることで,容易にストーリーを思い出すことができ,概要や要点が書きやすくなったと思われる。
 「Story Reproductionを継続的(各パートの終わりに)に行うことで英文を書くことに慣れていくと思いますか」という質問に対して38名中34名が「慣れてくると思う(16)」「どちらかと言えば慣れてくると思う(18)」と回答している。生徒に英文を書くことに慣れさせるためには,回数を重ねることが大切である。教科書の各パートの最後の活動としてStory Reproductionに取り組むことで,生徒は英文を書くことに慣れ,書く力がはぐくまれると思われる

アンケートのコメントから

 授業中の観察でも,生徒は楽しんで積極的に授業に参加している様子が感じられたが,生徒の事後アンケートのコメントにも,「Read & Look upが楽しかったし,英語が頭に入る気がした」「いろいろな音読方法で飽きずに取り組めた」「頑張れば覚えられるようなスラッシュの区切りがよかった」「今までよりもスラスラ書けて,とてもうれしかったし,楽しかったし,分かりやすかった」「ヒントがあることで考えよう,書こうという気持ちになれた」「難しかったが,やりがいがある」など好意的なものが非常に多かった。このようなコメントからも音読とStory Reproductionを中心にした授業は,生徒のやる気や意欲を高めることができることが読み取れる。                                 
                                           生徒アンケートのコメント

今後の課題
 
 今回の研究を通して,音読活動とStory Reproduction活動を中心とした授業展開を継続的に行えば,表現力(書く力)の基礎をはぐくむことができるということをある程度確認することができた。しかし,英語を非常に苦手とする生徒には,ワークシートの工夫(キーワードに日本語も付ける等)を検討する必要性を感じた。
 また,生徒作品よりの考察でも触れているが,つながりのある文章を書けるような指導方法を工夫することも今後の課題である。
 下にStory Reproductionの評価基準の一例を示しているが,なるべく数多くのStory Repoductionを行うには,あまり教師の負担にならず,なおかつ,生徒にとって効果的なフィードバックの方法を考えていくことが必要である。
 また,生徒がこの活動に慣れてくれば,より正しい英文が書けるように,ALTの協力も得て分担して添削していくこともできる。さらに,定期考査に取り入れれば,生徒はより真剣に活動に取り組むであろう。

Story Repoduction作品評価基準例
評価項目 基準 点数
内容(5点)
・本文の概要・要点が十分に書けている。
・本文の概要・要点がだいたい書けている。
・本文の概要・要点があまり書けていない。
5点
3点
1点
文法・構文(3点) ・文法・構文が概ね正確に使われている。
・文法・構文の誤りが時々見られる。
・文法・構文の誤りが多い。
3点
2点
1点
語彙(スペリング)(2点) ・スペリング・ミスがほとんどない。
・スペリング・ミスが目立つ。
2点
1点
                                                      合計10点

おわりに

 生徒の作品やアンケートを通して,音読とStory Reproductionを中心にした授業は,語彙や構文の定着を高めるだけでなく,自由で創造的な表現を引き出す上でも効果的であり,この2つの活動を継続的に行うことは,表現力(書く力)をはぐくむための大きな可能性をもつと考える。
 また,音読とStory Repoductionを中心にした授業は書く力を伸ばすだけでなく,他の技能の向上にも効果があり,総合的な英語力を伸ばすことができることが期待できるため,今後,更に研究を深めたいと思う。


《引用文献》
・ 國弘 正雄 『英語の学びかた』 2006年 たちばな出版 p.29

《参考文献》
・ 財団法人 語学教育研究所編著 『英語指導技術再検討』 1988年 大修館書店
・ 佐野 正之編著 『はじめてのアクション・リサーチ』 2005年 大修館書店
・ 樋口 忠彦編著 『個性・創造性を引き出す英語授業』 1995年 研究社
・ 村野井 仁 『第2言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』 2006年 大修館書店
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